叶わなかった助命嘆願
さらに父は言った。
「かならず聖君になれ。何があっても、私のことで恨みを抱いてはいけない。憎しみと怒りで身を滅ぼしてはならないのだ。わかったか、サンよ。父の教えを守れるな」
父はそこまで言うと、息子に早く戻るように言い聞かせた。
以上は、ドラマ『イ・サン』の描き方だが、史実でもサンは、英祖(ヨンジョ)から自害を命じられて王宮の中庭でひれ伏している思悼世子の助命を願い出ている。そのことを証明するかのように、歴史書は次のように記している。
「サンも、現場にやってきた。サンは思悼世子の後ろにひざまずいて、祖父に『父を許してください』と必死に懇願したが、すぐに帰されてしまった」
そのあとで、思悼世子は英祖の命令によって米びつに閉じ込められて餓死してしまったのである。
まだ10歳だったサンは必死に父の助命を願ったが、叶わなかった。
しかし、非業の死をとげた父への追慕を生涯忘れず、朝鮮王朝の歴史に残る偉大な名君になった。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
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