欲がない国王
中宗の在位期間は36年である。
歴代王の平均在位期間は約18年だから、およそ倍だ。これだけ長い期間を全うできたという意味では、実は幸せな王なのかもしれない。
朝鮮王朝が暴君を追放し、平穏になったときには、中宗のような“動かない王”がよかったのだろうか。
燕山君の後に個性の強い王が出れば、王権を拡大しようとして、さらに政治が混乱する危険性があった。そういう気持ちのサラサラない、欲がない中宗は官僚にとっても都合がよかったはずだ。いわば、時代の要請に合っていたのかもしれない。
朝鮮王朝では中宗のように、晴天の霹靂(へきれき)で急に王になった人が何人かいる。そういう人はえてして凡人で、危険性がなく神輿にかつがれることでよしとする人物だった。
かたや、クーデターを起こして王を追放しようとするほどの重臣たちは、かなりの志と力を持っている。そういう人たちに囲まれた中宗はおそらく「なんで王になってしまったのか」と情けない思いをしていたことだろう。
文=康 熙奉(カン ヒボン)