まともに漢字が読めなかった
元範は、21代王・英祖(ヨンジョ)の4代下の王族だが、祖父や兄が政争に敗れて処罰された影響で、本人も江華島でみじめな自給生活を強いられていた。
生きるためには農地で汗を流さなければならず、王族男子に必須の学問をする余裕もなかった。
そんな貧しい青年が、突然王に指名されたのである。知らせの使者が来たときに、「殺されるのでは?」とおびえたのも無理はなかった。それほど、不安にさいなまれる日々だったのだ。
1849年6月9日、元範は25代王の哲宗として即位した。彼は王として真っ先に何をしなければならなかったのだろうか。
驚くべきことなのだが、哲宗が純元王后から最初に要請されたのは、「勉強せよ」ということだった。
なにしろ、哲宗はまともに漢字が読めなかったのだから……。
通常、王になる人は、幼い頃から帝王学をみっちり教え込まれるので、相応の学識を備えている。
しかし、没落した王族だった哲宗にはそんな機会もなく、彼の教養は庶民と変わらなかった。
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