知りたい朝鮮王朝9/母の死の真相を知った燕山君

血に染まった布

任士洪は満を持して、彼は燕山君に接見を申し込んだ。
「お伝えすべきか迷いましたが、やはり報告させていただきます。殿下のお母様についてでございます」
燕山君の産みの母は、成宗の寵愛を一時期受けていたが、不祥事を相次いで起こして死罪となっていた。
当時、まだ幼かった燕山君はそのことを知らなかった。もちろん、この出来事は宮中で禁句になっていた。なぜなら、気性が激しい燕山君が、その話を聞いたらどうなるか、火を見るより明らかだったからだ。
「母上がどうしたと言うのだ。余が幼い頃に病気で亡くなったと聞いているが……」
「真相を殿下に隠していました。すべては殿下のお心を思ってのことでしたが、私にはもう限界です。母上様は死薬を飲まされて殺されたのです」
涙ながらに死の真相を伝える任士洪。かつて彼には、燕山君の母の処罰に反対したという過去があった。それゆえ、臆することなく報告することができたのだ。




すべてを語り終えると、任士洪は血に染まった赤い布を燕山君に献上した。
「母上様が死薬を呑まされた時に吐かれた血で染まった布でございます」
ここまで用意したのだから、任士洪の準備は周到だった。
燕山君は布を抱えて、その場で泣き崩れた。
その嗚咽は、王宮中に鳴り響いた。
一晩中泣き続けた燕山君。落ち着きを取り戻した彼の目には、怒りと復讐の火がごうごうと燃えていた。
燕山君は、母の死に関わった人物を徹底的に調べ始めた。
その調査書の中に李世佐の名前を見つけた時、彼の怒りは限界を越えた。こうして宮中を震え上がらせた「甲午士禍」が始まった。
手始めに、燕山君は成宗の側室たちを宮中に呼び出し、彼女たちとその子供まで無残に処刑した。
次の標的は、母の死罪に賛同した者や、それを実行した者だった。容赦なく、徹底的に死罪にした。




それでも燕山君の腹の虫はおさまらず、すでに死んでいる者たちも例外にしなかった。死者からも官職を奪った後、墓を暴きその遺体の首をはねた。
特に、以前に無礼を働いた李世佐に対する怒りは凄まじかった。燕山君は彼のみならず、一族郎党すべてを皆殺しにした。
虐殺劇はこれでも終わらなかった。燕山君を陰であやつる任士洪は、この際すべての政敵をほうむってしまおうと考えた。そこで、燕山君に嘘の報告を続け、燕山君の母の死に関わっていない者たちもこぞって死に追いやった。
無数の血が流れた「甲午士禍」。なんとか生き残った官僚たちも完全に委縮してしまい、燕山君は思いのままに独裁政治を続けた。

文=「チャレソ」編集部

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