悪女にならざるをえない事情
朝鮮王朝時代では、社会の隅々まで浸透した儒教の影響で、男尊女卑の風潮がとても強かった。
女性は親の遺産の相続権がなかったし、結婚生活では夫から理不尽に離縁を強制されても受けざるをえなかった。さらには、再婚の自由も奪われていた。
それだけではない。
女性は科挙の試験を受けられないので、どんなに頭脳明晰でも、官僚になることはできなかった。
せいぜい、王宮で女官になるのが精一杯だった。まさに、女性は立身出世ができない過酷な運命を背負った。
それだけに、女性が権力を持とうとすれば、悪女になるしかなかった。
もちろん、私利私欲が勝りすぎた悪女もいたのだが、すべては朝鮮王朝時代という男尊女卑の社会で必死に生きて悪戦苦闘した結果だったと言える。
3人の悪行
一般的に「朝鮮王朝三大悪女」と言われているのは、張緑水(チャン・ノクス)、鄭蘭貞(チョン・ナンジョン)、張禧嬪(チャン・ヒビン)の3人である。
順に見ていくと、張緑水は10代王・燕山君(ヨンサングン)の側室として暴君に悪行をけしかけたことで知られる。王朝の財宝を私的に持ち出すという強欲ぶりも見せて、燕山君がクーデターで王座を追われたあとには斬首になっている。
彼女の遺体に庶民が石を投げてすぐに石塚ができたというから、よほど人々から憎まれていたのだろう。
次に鄭蘭貞は、11代王・中宗(チュンジョン)の三番目の正妻だった文定(ムンジョン)王后の側近として王宮内で陰謀をめぐらせた女性で、ドラマ『女人天下』の主人公にもなっていた。
このドラマではカン・スヨンが鄭蘭貞を演じていたが、12代王・仁宗(インジョン)毒殺にも関わっていたという露骨な描き方だった。
史実では、鄭蘭貞も後ろ楯だった文定王后が世を去ったあとに自決せざるをえなくなり、末路はあわれだった。
最後に控えた張禧嬪は、19代王・粛宗(スクチョン)に寵愛された側室で、王妃を呪い殺そうとした罪に問われて最後は死罪になっている。
ただし、美貌と欲望で一度は正室にまでのぼりつめた数奇な運命がとても興味深いようで、“韓国時代劇の永遠の悪役ヒロイン”と呼ばれるほどドラマや映画にひっぱりだこのキャラクターになっている。ドラマ『トンイ』でイ・ソヨンが知性的に演じていた。
以上の3人が朝鮮王朝でも悪女の代名詞になっているのだが、彼女たちは低い身分から必死に成り上がろうとした結果として悪評を受け、運命に翻弄された部分も強かった。むしろ、本当の“ワル”たちは権力を握る側にいたのである。
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